星降りぬ

書かねば。

「会話劇」その先へ ~省略するゆゆ式~

 きらら2月号のゆゆ式面白かったです三上先生すみませんでしたって記事。発売から一か月がたち、3月号も出るころなので書こうと思う。

(ということで、単行本派の人はネタバレ注意です。最新10巻にも載ってません。ブラウザ閉じてください。)

追記:11巻出たな? さあ読め。

 

 前回の記事で、唯ちゃんの大声ツッコミなどゆゆ式トークの展開にパターン化の気配がみられる、という話をした。これはお互いを笑わせようとする「会話劇」の技巧的な発達であってネタの安定感が増す反面、ふつうの「会話」としては自然ではなく、さらには展開のマンネリ化にもつながる危なっかしい兆候である、という趣旨である。

 

 もっとも、だからゆゆ式はつまらなくなった、という話がしたかったわけではない。たしかに先の問題はマンネリ化につながりかねないが、それでも「会話劇」はおもしろいし、そのほかにもゆゆ式にはまだいくらでも広げる余地があるから、直ちにマンネリ化することもない。

 実際ゆゆ式は情報処理部の外へも広がりを見せている。相川組とどんなコミュニケーションをしていくのか、とか、おかーさん先生やモブから見た情報処理部の3人はどうなのか、とか。または、積極的迷子回やIMAX映画回、ハンバーグ回などのプチイベントでは素直な反応やふだんは聞けない言葉が出てくることもある。いよいよマンネリ化が避けられないようであれば、三年生になってしまえばよい。まだまだゆゆ式には楽しみがある。

 ただ、情報処理部の描き方としては、もう発展の余地はないと思っていた。3人はいつでも互いを満足させ、楽しく笑い合える会話ができるようになったのだから、これで完成。料理番組の展開は固定的であって、なにを調理するか、どう捌くか、だけが関心になるのと同様、ゆずこが持ってきたネタを調理し、唯ちゃんがツッコミで味付けしつつ、縁がおいしそうに食べる。これ以上は望むところはないと思っていた。コミュニケーションの円熟。かといって「会話劇」は彼女らにとっての日常になってしまったのだからなくすという選択肢もない。もう情報処理部を描くには外に広げるほかない。そう感じていた。

 だから(不躾にも)あんな否定的なニュアンスで記事を書いてみたのである。

 

 ところがどっこい、2月号がめちゃんこ面白かった。そして度肝をぬかれた。

 まさかの「会話劇」全スキップ。しなかったのではなく、きっちり「会話劇」を完成させたうえでまるまる省略。こちょばす方に持っていくゆずこの機知・努力・執念が全カット。我々読者には、壮絶な「会話劇」の残り香だけが示される。だけど面白い。もうびっくり。

 きらら日常系マンガは、キャラクターの会話が中心となるため、叙述のスピード(展開のはやさ。物語時間の流れ)は遅めである。ゆゆ式は縦の4コマにとらわれず会話が進むのでその傾向は顕著だ。連続的に叙述が進むなかで唐突に現れる省略は、読者を強くゆさぶる。

 さっきまでは普通に話していたのに、つぎのコマではいきなり唯ちゃんがベッドの上に退避、ゆずこが息を切らしている。「ね…結局…、どんあ話をしても…、こちょばす方に…、もってったでしょ…」のセリフで、時の流れにギャップがあることに気づかされる。「サバンナからのもっていき方、よくなかった?」っていったいどんな会話をしたんだよ。しかしその仔細が語られることはない。読者は「会話劇」前後のギャップのみを味わうことになる。

 省略法自体はゆゆ式でもたびたび用いられている。唯ちゃんがゆずこを殴るとき、殴るに至ったゆずこの失言と唯ちゃんの鉄拳制裁は描かず、これから殴られるであろうという予感と、案の定殴られたというゆずこの反応だけを描く、アレだ。

 しかし「会話劇」はここ5年のゆゆ式において屋台骨といっても過言ではなかろう。それを全部端折った。ふつうはありえない作りである。これがほかのマンガであったならば「ああ、作者はネタを思いつかなかったんだな」と醒めてしまいそうだが、2月号のゆゆ式はそれを感じさせない。きっとコマとコマの間にはすさまじいやり取りがあったに違いない、絶対面白かったはずだ、という確信がある。ゆゆ式だからこそ許される芸当である。正確に言えば、これまでに「会話劇」を磨いてきた情報処理部への信頼があるからこそ。巧みな言葉遊びで互いを笑わせ合っている毎日がそこにあるという安心感があるからこそ。そんな3人を10年間描いてきたゆゆ式だからこそ、である。

 

 「会話劇」に執着すると展開がマンネリになる虞れがあるほか、言葉遊びに終始して3人の人間関係そのものの描写がなおざりになるという問題がある。しかしきらら2月号のゆゆ式では「会話劇」をカットしたがゆえに、唯ちゃんの素直になれない照れやゆずこの唯ちゃんいじりへの執念、その後の他愛のないちょっかいと笑いがより鮮明になっている。

 さすがに省略法は飛び道具なので頻繁には使えないだろうが、ゆゆ式の可能性を感じるには十分である。

 11年目の情報処理部にも目が離せないな、と反省のしきりです。

 

 さて、3月号が楽しみ。日本海側は金曜から雪に閉ざされていて外に出れなかったんですけど、明日買ってきますね。